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宇都宮地方裁判所 昭和23年(行)56号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告が昭和二十二年十二月二日附を以て別紙目録記載の農地につきなした自作農創設特別措置法による買収の無効なることを確認する訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求原因として陳述した事実の要旨は別紙目録記載の農地は原告の所有地の各一部分であるところ被告は自作農創設特別措置法により所管粟野町農地委員会の買収計画に基き原告より異議訴願があつたにも拘らず結局昭和二十二年十月二日を以て買収の時期と定め同二十三年五月二十日原告に買収令書を交付して買収した、然しながら右買収には左記不法があつて当然無効である。

(一)  原告は農地一町四反一畝十七歩を所有し内七反九畝十三歩を自作し弟福田光助名義にて供出義務を遂行して来たのだから原告を不在地主としてなした買収は不法である、(二) 買収に係る農地は何れも一筆の土地の一部分であるがその土地の如何なる部分を買収するか所管農地委員会の買収計画に関する書類は固より前記買収令書によつても全く不明であるのみかこれを限定し得る何ものも存しない従つて買収は法律行為としての効力を有し得ない、(三) 福田喜八郎耕作名義にて買収した農地福田光助耕作名義にて買収した農地(一八九九番について)は何れも原告の自作地で小作地でない従つてこれを小作地として買収したのは不法である、(四) 被告が字桧木谷一八九九番一九〇〇番の一とし買収した区域は原告所有の同字一八七五番の一、二の山林八畝二十五歩に該当するか又はその山林の一部約五畝歩が含まれおるに前記地番の畑として買収したのは不法である、(五) 右農地の一八九九番の内大貫新一郎の耕作面積は五畝なるに六畝として伊藤豊吉の耕作面積は八畝歩なるに一反歩として(乙第六号証による乙第二号証の二によれば一反一畝として)大貫春信の耕作面積は三畝なるに四畝(乙第二号証の二による乙第六号証によると五畝歩)然も二ケ所なるに一ケ所として鈴木梅吉の耕作面積は一畝なるに一畝十五歩として又一九〇〇番の一の内松本宇吉の耕作面積は七畝なるに八畝として大貫半平の耕作面積は一反一畝なるに(一九〇〇番の二の内七歩と山林二五歩を削り加える)一反歩として大貫福太郎の耕作面積は一九〇〇番の二の内二〇歩を削り加えあるに全部を八畝歩として福田光助の耕作面積は四畝歩なるに一反十五歩として大貫政一の耕作面積は三畝歩なるに(山林一畝加はる)二畝歩として大出勝一郎の耕作面積は二畝なるに一畝十五歩として各買収し耕作実面積と買収面積と著しい相違あるのは不法である、(六) 松本宇吉は鍜治職大貫政一郎鈴木梅吉は人夫で他に耕地がなく自作農に精進すべき途のない零細農家に解放するための買収は自作農創設特別措置法の精神より見て不当である。

よつて右買収行為の無効確認を求むるため本訴請求に及んだというにある。

(立証省略)

被告指定代表者は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として農地買収は自作農特別措置法第三条により政府が行うものであつてその帰属主体は国である知事は単に買収令書交付機関に過ぎないよつて本訴は国を被告とすべきであるから相手方を誤つたものであると本案前の主張をなし本案につき被告が原告主張のような経過の後買収令書を交付したこと買収農地が一筆の土地の一部であることは認めるがその他は争う、本件農地は粟野町大字口粟野字桧木谷千八百九十九番一、田六反十歩同所千九百番の一、一、畑七反一畝四歩の内に該当し所謂不在地主の小作地として自作農創設特別措置法第三条第一項により訴外大貫春信外数名が賃借権に基き耕作している部分を買収したもので買収区域は耕地調査の結果による農地台帳又は検証調書見取図のように決定している仮に買収計画に記載した面積と事実上の実測面積とが差異あつても買収そのもの効力に影響がなく買収せらるる土地はあくまで事実上の小作地の面積でありこの事は自作農創設特別措置法第十条自作農創設特別措置法の施行に伴う土地台帳の特例に関する省令よりも明かである、原告は先に本件農地につき買収処分取消訴訟を宇都宮地方裁判所に提起し(昭和二十三年(行)第四二号)訴却下の判決を得たもので本件主張事実は無効確認の事由とならないから原告の請求に応ずることができないと陳べた。

(立証省略)

理由

行政処分無効確認の訴訟は処分をした行政庁を被告とするも適法と解するので被告のこの点に関する主張は理由がない次に本案については被告が本件農地を原告主張のように買収し買収令書を原告に交付したこと買収地が何れも一筆の土地の一部であることは当事者間に争がない、よつて逐次争点について検討するに、(一) 原告は在村地主であるのに不在地主として買収したと主張するが成立に争のない乙第四、七、八号証によれば原告は昭和二十年十一月二十三日当時高崎市に居住していたことが認められるからその賃貸地を不在地主の小作地として買収したのは違法でない、(二) 一筆の土地の一部を買収し然もその何れの部分を買収するか不明だから不法だと原告は主張するが成立に争のない乙第二号証の二第六号証及び検証の結果によれば買収される区域は明かだから原告の主張は理由がない、(三) 原告の自作地を買収したと原告は主張するが証人福田喜八郎神山忠司の証言によると福田喜八郎耕作名義の土地は同人及び同人より転借中の広田林三郎、伊藤カネの耕作地であつたことが認められる又福田光助耕作名義の畑は一八九九番とあるは一九〇〇番の誤りであることが成立に争のない乙第六号証同第二号証の二と弁論の全趣旨により明かだから自作地の買収ではない、右認定に反する福田光助広田林三郎の証言は措信できない、(四) 被告が買収した区域は字桧木沢千八百九十九番千九百番の一でなく原告所有の山林であると原告は主張するが成立に争ない乙第六号証甲第二号証と検証の結果によれば買収区域は千八百九十九番千九百番の一に属するか仮にさうでないとするも大部分は右両番の区域に属するものと認められるから買収行為の当然無効を来すものでない、(五) 買収面積と耕作しおる実面積と相違すると原告は種々主張するが右は仮に相違の限度により違法であつても買収行為を当然無効ならしむるものでない、(六) 二反歩以下の僅少なる本件土地のみを耕作し他にも職業あり農業に精進する見込のない者に解放するための買収は自作農特別措置法により不法であると原告は主張するが二反歩以下の田畑のみを耕作する者の当該農地につき樹てられた買収計画であつても自作農創設特別措置法の解釈上不法であるとは言い得ない、以上判断のように原告の主張は何れも採用できないよつて原告の請求を理由ないものとして棄却し民事訴訟法第八十九条を適用し訴訟費用の負担を定め主文のように判決する。(昭和二五年八月四日宇都宮地方裁判所)

(別紙)

目録

栃木県上都賀郡粟野町大字口粟野字桧木谷千八百九十九番

一、畑 四反八畝(六反十歩の内)

同所千九百番の一

一、畑 四反五畝十五歩(七反一畝四歩の内)

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